私は、長い教師生活の間、作文教育を軸に取り組んできました。
作文教育は、詩や作文・日記を書くことを通して、読み合うことを通して、一人一人の子どもを理解し、子ども同士をつなげ、教師と子どもをつなげ、親とつながっていきます。持ち味を認め、共感的理解を示すことにより、子ども達は励まされ、自分に自信を持って個性を伸ばしていきました。
子どもが書きたいことを、書くことを大事にしてきましたが、ある意味では、それ以上に私が子どもの書いてくれた作品をどう読むのかが大切だと考えています。あわせて、友達が書いた作品を学級の子どもと読み合うことを大切にしてきました。
次の作品は、私の実践の一コマです。
妹の赤いランドセル
( 2年しんじ)
きのう、赤いランドセルを買いにデパートに行きました。
赤いランドセルが、いろいろならんでいました。
お母さんは、どれにしようかと考えていました。
きまって、はこに入れてもらって帰りました。
家に帰ってから、妹が赤いランドセルをしょって、お父さんとお母さんとぼくの前で、見せていました。
かばんをあけてみると、チャックにメダルがついていました。
ねる時、ぼくのかばんがおいてあるとなりに、妹は、新しい赤いランドセルをおいてねました。
今日、学校から帰ってべん強している時、妹が帰ってきて、赤いランドセルをしょっていました。
ぼくは、
(早く妹といっしょに、学校に行きたいなあ)
と、思いました。
この作品は、次のようにして、みんなで読み合いました。
一、この文で、すきなところに線をひいてみましょう。(できたら、すきな理由も言ってみてください)
二、この作品で、しんじ君に聞いてみたいことはありませんか。
三、あなたも、しんじ君と同じようなことがあったり、感じたりしたことはありませんか。あったら、お話ししてみてください。
四、しんじ君に言ってあげたいことを、しんじ君にお話しするように書いてみましょう。
毎回はできませんが、国語(作文の時間をとって)の時間に、読み合いをしてきました。子ども達が書いた感想です。
・わたしは、(早く妹といっしょに行きたい)というところは、わたしもいっしょです。わたしも、早く妹と弟といっしょに行きたいです。わたしの妹は、来年小学生です。
・しんじくん、早くすうちゃんといっしょに、学校に行けたらいいね。そのために、妹さんがしんじくんのことを(さすがおにいちゃんだなあ)と思うことをしなくちゃだめだよ。それには、やさしくしたり、べん強をがんばってしっかりしてください。がんばってね、しんじくん。
・しんじくん、早くすうちゃんが学校にきてほしいね。ぼくの妹も、早く学校にきてほしいです。同じ組になれたらいいのにね。
・本当に早く、しんじくんといっしょに学校に行けたらいいね。わたしも、そんな気もちはあるけど、にくらしい弟だから、そんな気もちはないけど、早くしんじくんの妹が学校にくればいいね。
・しんじくん、早くいっしょに学校に行けるといいですね。ねる時、妹さんは、しんじ君のかばんの横でねたんですね。その時、しんじくんはいい人だなと思いました。
・しんじくんの妹、よかったね。赤いランドセルを買ってもらって。だって、まだ、学校に行ってないのにランドセルをしょっているんだから。しんじくんの妹、うれしそうやったやろうね。
・しんじくんの妹さんは、ランドルを横においてていいなあ。しんじくんは(早く妹といっしょに、学校にいきたい)がやさしいなあと思います。
一つの作品を読み合うことで、その子が、何に心を寄せ、心を動かしているかがよく分かります。そのことで、作品を書いた子どもに共感したり、(自分だったらこうするなあ)と考えたり、自分の考えを持つことができます。
そういう事実を通して、子ども達は友達に対する考えを深め、人に対する見方や考え方を、より確かなものにしていくのではないでしょうか。
近年、『いい子のいい作文』をよく見聞きします。
(子どもが、そんなこと思わないやろう)とか、(そんな言い方はしないやろう)と思うことが、よくあります。
上滑りの『言葉』、体を通っていない『言葉』で、事実がないのです。
事実を基にし、事実を通して物事を判断できる人間になってほしいものだと考える、今日この頃の私です。