おかあさんの膝
新川和江
おかあさんの膝には
やさしい陽だまりがある
縁側でひるねをする猫のように
わたしも時折
その陽だまりの中でまぁるくなって
うとうと眠りたい
おかあさんの膝には
たんぽぽの咲く土手と
つくしののびる広い野原がある
いまでもひとりの女の子が
わらべうたを歌いながら
かがんで花を摘んでいる
おかあさんの膝には
老いてうすくなっても
庇護と許容の大きな屋根が用意されている
世界中から爪はじきにされた罪びとでも
そこでは迎えいれられて
あたたかい涙で洗われる
いつでも帰ってゆけるふるさと
誰もが帰ってゆくふるさと
おかあさんの膝