『お母さん』
新川 和江
おかあさんは 女優じゃない
花束をもらったことも いちどもない
だからわたしがあげた
たった一りんのカーネーションにも
よろこんで すぐなみだぐんでしまう
おかあさんは学者じゃない
大ぜいの人の前で こうえんなどしたこともない
でもおかあさんの話しことばは
焼きたてのパンにバターがしみるように
あたたかく わたしの心にしみこんでくる
そんなおかあさんが わたしは好き
おかあさんは気にするけれど
笑うと 目じりに寄る あの小じわが好き
どんな香水もかなわない
〈 うちのおかあさん 〉のにおいが好き